散らないサクラ
怖い、こわい、コワイ。
名前を呼んでも目覚めない。
声を掛けても反応がない。
目を、開けない。
それが意味する事は、――――死だ。
横たわる最愛の人。
それが浮かんでは消え、浮かんでは消える。
「……秋羽、いやだ、秋羽ぁ、あき……、ひっ、ぅ……」
まるで子供のようにリョウの胸に縋り、泣きつく。
自分の目や耳や、鼻を捧げたら助かると言われたら喜んで差し出す。
大声で泣き叫んで、喚いて、醜態を晒したら助かると言われたら、喜んで晒す。
だから、お願い。
都合のいい時だけ頼るけど、神様。
秋羽を助けて。
愛してる人を、お願い助けて。
弥生は震える身体をリョウに預けながら祈る。
髪を梳いていくリョウの手が微かに震えている。
お互いが恐怖のどん底に突き落とされた、そんな気分だった。
コツコツコツ、どれくらいの時間が流れたのか。
感覚があやふやの中で、響く靴音。
薄暗い待合室に続く廊下を一人の男が歩いてくる。
ひざ下まで伸びる白衣が、男を医者なのだと主張した。