散らないサクラ



「色々な話をしました。10年以上ぶりに。……そんな中で、佐倉さん。貴女の存在が息子に、秋羽にとってとても大切な人なのだと、そう言われたのです」

「っ……」



ぼろり、と目尻に溜まった涙がこぼれ落ちた。

心臓が誰かに掴まれた様に圧迫され、痛い。



「お礼を、言わせて下さい。秋羽の傍にいてくださってありがとうございます。情けない父親ではありましたが、これからは秋羽と共に“親子”の関係を築いて行きたいと思います」



和葉は再び深々と頭を下げた。

秋羽の語る言葉の中に、一際輝く存在の女性。

語る時の声色、全てがこの人を“特別”なのだと思わせた。

大袈裟かもしれないが、息子を救ってくれたのだと、思った。

和葉は顔を上げて、もう一度礼を述べた。



「息子はこの獅堂の家を継ぐ、と言ってました。一人前の男になって、貴女を守りたいから、と」



『医大を卒業して、此処に入りたい。……こんな風に親を頼るのも、今更かって思うだろうけど。……頼む。親父が暇な時でいいから、此処の事、色々教えてくれねえか』



決意の篭った静かな宣誓だった。



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