散らないサクラ
何処だ、ここは。
俺はなんで、こんな所にいるんだ。
ああ、そうか。
向こうに行かなきゃいけねぇんだ。
真っ白な世界で右も左も分からないはずなのに、目的地がはっきりと脳内に浮かぶ。
一歩、また一歩と歩き出すと、ぼんやりと白い世界に道が見え始める。
歩く度に足元には植物が芽を出し、あっという間に色取り取りの花を咲かせる。
暫く歩くと真っ白いドアにたどり着く。
その先に行かなくちゃいけねえ。
おもむろにドアノブに手をかけようとした、その時。
「だぁあああぁああ!! まてまてまて、ちょっとタンマァァァ!」
背後から罵声にも似た叫び声が聞こえたかと思えば、腕を引かれ態勢を崩す。
その隙に後ろにいた人物が白い扉の前に手を広げて立ちふさがった。
「ふぅ、間に合った」
「……おい、退けよ」
「獅堂秋羽で合ってるよな?」
名前を言われてぽかん、とした。
獅堂秋羽か、と言われ、そうだ、俺は獅堂秋羽だと、思い出したからだ。
自分の名前を今の今まで忘れていたなんて、おかしすぎる。
頭の中で考えたが、それもすぐに泡のように消える。
「そうだが、話してる時間はねえんだ。俺はその先に行く」
「まぁ、待ってくれよ。少しでいいから話さないか?」
立ちふさがった人物は男のようだ。
“ようだ”と言うのは顔が靄がかかったかのように見えないからだ。
ちゃんと顔を見ているはずなのに、夢を思い出す時のように曖昧でよく分からない。
俺は首を振る。