散らないサクラ



「無理だ。俺は行かなくちゃ行けねえ」

「なんでだよ、理由があるのか?」

「……理由?」



疑問が浮かんで、また消える。



「理由はねえ。でも行かなくちゃ行けえねえ」



俺の答えに、男は小さく鼻で笑う。



「んな曖昧な答えじゃあ行かせられないな」

「はぁ? てめえ、何なんだよ。……とにかくアンタに付き合ってる暇はねえ」



あのドアの向こう側が目的地だ。

急かされちゃいないし、誰かに来いと言われたわけでもない。

だが、この心臓の中に残っているのは行かなくちゃいけないと言う思いだけ。

俺は悪態を付いて舌打ちをする。

そんな俺を見て男は顔を歪めて笑う(そんな気がする)。



「ちょっと、だ。な、俺と世間話してからでも間に合うだろう?」



急いではない、でもその先に向かいたい。

だがこの男は一筋縄では動く事はないだろう。

言葉の威力がそれを物語る。

俺は深くため息を着き、了承の意として草花が生い茂る地面に腰を下ろし、胡座をかく。



「悪いな、サンキュ」



男も白いドアの前で腰を下ろした。

こいつ、俺を行かせない気満々じゃねえか。



「なぁ、秋羽。お前、大事な約束、忘れてないか?」

「……大事な、約束?」



唐突に切り出された話題に、首を傾げる。

その瞬間、ずきり、と脳の端っこに電撃が走る。

痛みは軽度だが、じんじんと感覚が残る。


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