散らないサクラ
「……やくそく」
もう一度口に出してみるが、何一つ出てこない。
蟠りの様な物は感じるが、それを追求しようとするとすぐに“あのドアの向こうに”とそれに繋がる。
ゆっくりと首を横に振ると、男は口角を上げて優しい笑みを作った(ように思う)。
「そうか。なぁ、扉の奥に行く前に、俺の話を聞いてくれないか?」
「……ンでだよ」
「秋羽に聞いて欲しいからだ。俺、お前に会いたかったんだよ、ずっと」
気色悪い事を言われ、嫌悪感から睨むようにして男の顔を見る。
にかっと太陽みたいに笑う男は成人しているように見えて、心は10代の様な印象を与える。
むすっとした表情のまま、腿に肘を付き、手の平に顔を乗せる。
勝手に承諾されたと取ったのだろう、男が口を開く。
「秋羽、今年で……成人か」
成人、という言葉が脳内に浮かんで、またしても自分が20歳だと言う事実を思い出す。
元々答えはあるのに、引き出しを開かなきゃ出てこない感覚に少し違和感を覚える。
「……それがどうした」
苛立ちを言葉にすれば、男は何処か懐かしむ様な顔つきで俺を見た(気がする)。
「たった20年、されど20年だ。どうだ、人生を謳歌してるって断言出来るか?」
「ア? てめえ、何を言ってンだよ」
「後悔をして欲しくないんだ」
昔からの癖で(昔の俺が出てこないが)、きつくなる言葉遣いと瞳に怯んだ様子もない男は、しっかり芯の持った眼光を向ける。
逆にこっちが怯む。
何か大事なものを訴えかけられているような、そんな気がする。
バツ悪く瞳を逸らせば敗北した気分になって、居心地が悪く舌打ちをした。