散らないサクラ



「俺が今すごく後悔してるからな、お前みたいに若い奴らには後悔ばかりじゃない未来を歩いて行って欲しいんだ」

「お前もそこまで年取ってねえだろ」



20代後半、30代前半の容姿(の様に見える)。

悟った様な言い方に、眉を寄せれば、男は目を丸くした後、声を上げて笑った。



「ははっ、確かにそうだな! 俺に言われても説得力ねえってか? ……うーん、そうか、もっと威厳のある見た目だったら信憑性もあったってもんか」



ぶつぶつ、と呟く顔には冗談と言う文字はなく、至って真剣にそれについて考え出した様だ。

呆れて、瞳が胡乱になる。

溜息をおまけ付きで吐き出す。



「で、アンタは何を後悔したんだよ。俺に説くくらいの後悔なのか?」



なんで俺が話題を振らないといけないのか、謎だが。

このまま黙っていたら延々と悩み続けそうだ。

それは避けたいし、こいつとの話を終わらせ、早く扉の向こうに行きたい。

男は俺の言葉を聞き、呟くのをやめ、そして困った顔をしながら微笑む。



「ああ、人生最大の後悔。……俺のエゴで大切な人を傷つけてしまった」

「そンなの誰だって経験あるだろ」

「……いや、その中でも最大級だな」



ため息が吐き出された。



「自分自身、いつかその人の元を去ると知っていながら、それを黙ったまま、傍に置いたんだ。俺のエゴの為にな」



吐き出された言葉に記憶の扉が、ガン、っと叩かれる。

その途端、目の前にいる顔をぶん殴りたい衝動に駆られ、それを理性がぐっと引き止める。
拳に力が入る。


何でこんな気持ちになる?

何が苛立たせる?



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