散らないサクラ


会ったばかりの相手に“怒り”を覚えるなんて、俺は異常者か。

表情の変化に気づいたのか、男は眉を垂れさせたまま、口元に笑みを携える。



「俺を、殴りたいか?」



正直言って、物凄く。

何故ここまで感情が高ぶるのか検討もつかないが、目の前の顔はそれを分かっているかの様だ。



「……ああ。顔面に1発でいいから入れたい。が、俺にはお前をそうする理由がないはずだ。ンでこんな気持ちになンのか……」



よく分からねえ、分からねえが。



「俺も、アンタに凄く会いたかった」



こいつが俺に会いたいと言った時の様に、俺もこいつに会いたかったんだと。

記憶が出てこないのに、確信を持って言える。

記憶じゃなく、身体に染み付いた感覚が訴える。

こいつに会えなくて酷くもどかしく、いっそのことひょっこり顔を出してくれたら驚きはするが、堂々と戦える、と。



「分かんねえけど、思い出せねえけど、アンタに言ってやりたい事が物凄くある。……アァ! ンなんだよ、これはっ!」



苛立つ気持ちを拳に込めて、真っ白い床を殴る。

鈍い音はしたが、一向に痛みは襲ってこなかった。

本来なら疑問を持つはずなのに、それすらスルーしてしまうこの状況に、更にイライラは募る。



「……実は、秋羽。俺もお前を1発殴ってやりたいと思ってたんだよな」

「あ?」

「どうだ、殴り合ってみるか? 青春の1ページになるかもしれないぞ」



呆れて言葉が告げない。



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