散らないサクラ


伏せられた瞳がおもむろに上がり、そして此方を向く。

その真剣な色に一瞬息を呑む。



「なぁ、秋羽。後悔を繰り返し、その後悔が教訓となり先に進めるのなら、それが1番いい事だ。だがな、後悔を教訓に変えられない事態もある。いつまでも苦しみのループの中にいるもどかしさ、……お前にはそれを味わって欲しくない」



どくん、と心臓が大きな音を立てた。

冷や汗が流れ出るような嫌な感覚が体中を締め付ける。

自分の置かれている立場が酷く危ない状態のような気がして、ぶるっと身体が震える。

男の言葉が確信を突いた、それだけは確実。



「……俺は……、ここにいちゃいけねえのか」



ぼんやりと浮上してきた疑問が、しっかりと輪郭を表してくる。

男の後ろにある大きな白い扉。

その先に行くことがただ単に目的としてあったが、扉の先に進む理由は見つからない。



男は否定とも肯定とも取れる笑みを貼り付けた。



「秋羽、耳を澄ませてみてくれよ」

「耳?」

「ああ、そうだ。いまのお前なら聞こえるんじゃないか」



優しく穏やかな瞳が害のない事を物語る。

言う通りにしようと目蓋を落とし、耳に神経を尖らせる。

真っ白い空間のこの場所で何処から吹くのか分からない風が吹く。

暖かい温度が頬を撫でる。



『――――っは、き――……、は』



薄らと聞こえ出す、音。



『……―――、秋……―――……羽』

『―――総長』

『秋羽さん』

『秋』



名前だ。

俺の名前が聞こえる。

はっきりと聞こえだした、俺を呼ぶ声。



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