散らないサクラ



『――――秋羽っ!』




――――ズクンッ。


全ての細胞が唸り声を上げる。

巡ってくる血の巡りが、ごうごうと音を立てて全身を締め付ける。

焼け付くような熱さに身を捩れば、鮮明に聞こえ出す声。




『っぅ……、秋。……秋羽。……お願い、頑張って』




ガンッ、と鈍器で殴られた感覚に揺れる。



「……っ、痛ぇ……。ン、だ……これ」



頭も心臓もガンガンと鈍痛が走る。

目眩すら起こしそうになるのに、女の声を聞き逃すまいと必死に意識を保とうとする。

まるで身体と脳みそが別の生き物のように感じる。

焦燥感を煽られ、目の前にその人物がいるわけでもないのに手を伸ばし、何かを掴もうとする。



「……あ。糞っ、俺は、俺は」



だめだ、この女だけは泣かせないって決めたのに。

ずっと餓鬼みてぇな顔で笑ってて欲しいって、泣かせねえって。

お前を幸せにする、だから笑っててくれと……そう、俺は。

約束を、した。



……約束をしたんだ。





< 273 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop