散らないサクラ



『秋、アンタが好きだよ』

――――涙が出るほどその言葉を俺は待っていた。



『子供? んー、そうだな。最低でも2人は欲しいね。兄弟は作ってあげたい』

――――過去を受け止め、未来の約束をした。



『ビールが飲みたい。……よっしゃ、買いにいくぞ、秋羽!』

――――餓鬼みたいに笑う顔を心底愛しいと思った。



『アンタが無事でさえいれば、あたしはそれだけでいい』

――――無事で帰ると約束をした、したンだ。



餓鬼みたいな笑みで笑うくせに、悟ったような言い草も。

瞳の奥にある冷たい色をした闇の色も。

抱きしめる時に感じる暖かな温もりも。

全て、全てが愛しいと、思えた。

俺は、この女を愛しいと、そう思っている。



愛しい、と。



ガガガガッ、頭の中で砂嵐音が流れ、プツン、と思考の糸が切れる。

何もかもがリセットされるような、真っ白な世界がすっと体に染み込んでくるような不思議な感覚。

脳内に流れ出すたくさんの記憶たちが膨大な量で海馬に吸収されていく。




ああ、……戻ってくる。




「―――――弥生」




震えた唇から出たとは思えない安定した声色が、愛しい女の名前を呼ぶ。




「聞こえたか」



焦点を男に向ければ、穏やかな笑みを携えていた。



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