散らないサクラ
「ずっとずっと、秋羽を呼んでたんだ。苦しそうに、呻いて。張り裂けそうな胸の内が俺にまで届いた」
「…………」
「それに秋羽の友達の声も。ははっ、かえったらお礼言わないと、なぁ」
冗談めかした言い方に寂しさが混じる。
俺は、ゆっくりと何度も呼吸を繰り返す。
その間にもたくさんの声が共鳴し、一個一個体中に入り込む。
しばらくの沈黙、男はおもむろに上を見上げて、そして慈しむように微笑んだ。
「秋羽、迎えが来たぞ」
男の言葉に顔を上げ、目を見開く。
真っ白なその世界に降り注ぐ、桜の花びら。
ゆらゆらと、薄桃色の花びらは踊るようにそして舞うように、吹き荒れる。
ああまるで。
――――初めて会ったあの日みたいだ。
桜吹雪と共に現れた。
気高く、高貴、散ることを恐れる事のない桜のような女。
弥生。
『――――秋羽、かえろう』
声が、聞こえる。
穏やかで暖かい、手を伸ばせばすぐそこにいるかのように感じる。
そして、聞こえ出す様々な音。
『秋』
『秋羽さん!』
『獅子』
歩、笹切、……番犬。
お前たちの声が聞こえた時、酷く安心したンだ。
俺の存在がそこにある事を証明された気がして。
そして同時にお前らの存在に感謝してぇ気分になった。