散らないサクラ


「ずっとずっと、秋羽を呼んでたんだ。苦しそうに、呻いて。張り裂けそうな胸の内が俺にまで届いた」

「…………」

「それに秋羽の友達の声も。ははっ、かえったらお礼言わないと、なぁ」



冗談めかした言い方に寂しさが混じる。

俺は、ゆっくりと何度も呼吸を繰り返す。

その間にもたくさんの声が共鳴し、一個一個体中に入り込む。



しばらくの沈黙、男はおもむろに上を見上げて、そして慈しむように微笑んだ。



「秋羽、迎えが来たぞ」



男の言葉に顔を上げ、目を見開く。

真っ白なその世界に降り注ぐ、桜の花びら。

ゆらゆらと、薄桃色の花びらは踊るようにそして舞うように、吹き荒れる。

ああまるで。




――――初めて会ったあの日みたいだ。




桜吹雪と共に現れた。

気高く、高貴、散ることを恐れる事のない桜のような女。

弥生。




『――――秋羽、かえろう』



声が、聞こえる。

穏やかで暖かい、手を伸ばせばすぐそこにいるかのように感じる。

そして、聞こえ出す様々な音。




『秋』

『秋羽さん!』

『獅子』



歩、笹切、……番犬。

お前たちの声が聞こえた時、酷く安心したンだ。

俺の存在がそこにある事を証明された気がして。

そして同時にお前らの存在に感謝してぇ気分になった。




< 275 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop