散らないサクラ
舞う、桜の花びら。
誘うように踊るように、意識の淵を掻っ攫っていく。
『秋羽』
呼ばれる名前。
飛びそうになる意識の中、今まで靄がかかって見えなかった男の顔がはっきりと見えた。
幸せそうに腕を組み、タキシード姿に身を包んだ男を、憎くも羨ましく思ったのはそう昔のことではない。
全てを許し、全てを受け止め、自らの罪を認め、そしてそれを繰り返すその男は、弥生を思わせるような餓鬼のような顔で笑った。
「弥生をよろしく頼む。……幸せにしてやってくれ」
それと、と続ける声はとても優しい音をしていた。
「秋羽、お前も幸せになれ」
じゃあな、とぶんぶんと大きく手を振る笑顔の男を最後、俺の意識は薄れ、そして、完全に真っ白な世界から飛び立った。
――――ああ、アンタは……。