散らないサクラ
「少なからず医療に関わっていた人なら、知ってたはずだよ。確実に殺すには深く横に切らないといけない事は。だけどアンタの母さんは、縦に傷を入れた。……分かるだろ? この意味」
心臓が再びなにかに突かれたように音をたてた。
腹の傷が薄い事に、縦に入れられた深さが浅い事に、気づいていた。
気づかないわけがない。
だけど、“手元が狂っていたから、だから上手く腹に入らなかったんだ”と、そう言い聞かせていた。
あの人は、俺を一緒に連れて行こうとしていたんだと、そう思い込ませた。
俺が生き残ったのが悪いんだと……、思い込むしかなかった。
この傷は俺だけ生き残った罪人の証なのだ、と。
「秋羽」
優しい音色が耳を流れる。
佐倉は俺の頭へ腕を伸ばすと、自分の額と俺の額を合わせた。
俺はそれを受け入れた。