散らないサクラ
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何回、この女に驚かされるんだろうか。
あと何回、驚かさせるんだろうか。
「だから、子供、出来たんだって」
煙草に火をつける手が止まる。
「…………お、ま、だって」
「ピル? あれは1年前から飲んでない」
「な、っ、お、で」
情けない、言葉が形になって出てこない。
そんな俺を弥生は何一つ変わらない顔で一瞥して言う。
「あ、確信犯とかじゃないよ? 信頼故に飲まなくなったって話」
変な勘違いしないでね、と続ける。
おい、待て俺はまだ付いて行けてないぞ。
「ほら、1ヶ月ぐらい前だっけ、酔った勢いでした時? お互いよく覚えてなかっただろ?あの時、付けずにしたよーな気がしたんだよねぇ」
待て待て待て、ちょっと分からないが、こう言う報告って凄く重大でもっと深刻で感動的なもんじゃないのか。
こうもあっさりと、料理が出来ました的なノリで済ませていいのか。
なぁ、おい。
放心状態のまま放置され、話は進んでいく。
「昨日産婦人科行ってきてさ。5週目。特に異常もなくスクスク元気に育ってるって」
すり、っと愛おしそうに腹を撫でる。
「と、言うことだ! 結婚しようか、秋」
ニカっと、餓鬼のように笑うこの女に。
――――俺はあと何回驚かされるんだ。