散らないサクラ
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――――ざざあ、ざざ。
秋風が木々を遊ぶように揺らす。
スーツに身を包み、敷き詰められた砂利を踏みしめ、一つの墓石の前で止まる。
“榎本家ノ墓”、綺麗に掃除され、真新しい花も飾られたそれは愛ある証拠。
こいつの人柄を思わせるお菓子の供え物にふっと笑みが漏れる。
「…………」
墓の前にしゃがみ込む。
片手に持っていた菊をそっと活けてある花の中に押し込む。
窮屈そうに身動きした花たちは秋風に遊ばれ揺れた。
――――8年間、一度も此処を訪れなかった。
今日初めてこの場に降り立ち墓に対面している事になる。
場所は教えられ、一緒に行こうと提案された事もある。
それを頑なに断り続け、今は時期じゃないと言い続けてきた。
「とうとう来ちまったなぁ」
ピカピカに磨かれた墓石に触れる。
当たり前の様にひんやりとした石の感触が伝わってくる。
秋風が黒髪を攫って行く。
ふわり、ぶわり、色んな物を巻き上げ楽しそうに笑うように、去っていく。
「あれ、……秋羽!?」
暫くして砂利を踏む音と共に弥生が姿を現した。
両手に花を抱えた弥生は瞳を丸くしながら墓石へと近づいて来る。