散らないサクラ
「ビックリしたぁ……、あんた此処……」
「命日だろ、今日」
「そうだけど。……来るなら言ってくれれば一緒に来たのに」
榎本竜二、弥生の元旦那、今でも変わらない最愛の人。
そして俺も愛する人間だ。
初秋のこの日、こいつにとっても最愛の人を残し、この世を去った無様で可哀想な男。
「竜、良かったな。秋羽来てくれたよ。毎回来ないからやっぱり嫌われてるんじゃないか、って話してたんだよ」
墓石を見つめ、ケラケラと楽しそうに笑う。
その間にも花を活け、鞄からは缶チューハイを取り出し墓石前に並べる。
慣れた手つきに、もう何回もこの日を迎えてきたのだと、実感させられる。
ジャリ、と地面にある足に力を入れて立ち上がり、甲斐甲斐しく世話を焼き続ける姿を眺める。
こうやって、何年も……何年も。
手を伸ばし枯れた花を摘み取る弥生の手を握る。
突然に作業を停止さられ、少し不信そうな目が此方を覗き込む。
暫く無言のまま、手の温度を感じている俺に弥生は無言のまま付き合ってくれる。
……こう言う所も俺は。
「弥生、ずっと言ってなかったんだが、お前の死んだ旦那にあった事がある」
「は?」
「8年前、刺されて意識の淵を彷徨っていた時だ」
弥生の表情が変わる。
びくり、と肩が揺れて真意を探る熱のこもった瞳がこちらを見る。
「……あいつ、俺が向こうの世界に行かない様にって引き止めてくれた。お前やリョウさんが言った通り熱血漢溢れる奴だったよ。……くくっ、殴り合いもした」
「は、……はは、竜らしいね、そりゃ」
熱がぐらりと揺れる。