散らないサクラ
そんなおれをみて、おとうさんはすこしこまったかおをした。
ひょい、ともちあげられ、だっこされる。
「泰雅、今度の土曜日、前に行きたがってた遊園地に行こう、な? 弥生も一緒に」
「このまえもそういっておかあさんこなかった」
ぷっくり、ほっぺをふくらませると、おとうさんはこめかみをおさえた。
「あー、あの日だったか。今度は本当だ、弥生と3人で遊園地行こう」
ふんわりとわらうおとうさんのくろいかみのけをにぎる。
むかしは、きいんろだったんだって。
しゃしんみせてもらったけど、ほんとうにきんいろだった。
おれはうつむいて、うなずいた。
「やくそく、してよ」
「おう、約束する」
おとうさんがわらうから、おれもつられてわらった。
* * * * * * * * * * *
もう5さいになるんだし、おとこだからなくのはいやだった。
でも、おれはいま、なきそうになっていた。
「そうか、分かった。ん、仕方ねえよ。……ああ、もって昼過ぎって所だな。……頼むぞ」
でんわしているおとうさんのせなかがぼやける。
……おかあさんはけっきょくこない。
おとうさんのはなしでは、おかあさんのおじいちゃんのおうちにいっていて、おくれてくるんだって。
でも、でも。
おれ、きょう、すっごくたのしみにしてたのに。