散らないサクラ


そんなおれをみて、おとうさんはすこしこまったかおをした。

ひょい、ともちあげられ、だっこされる。



「泰雅、今度の土曜日、前に行きたがってた遊園地に行こう、な? 弥生も一緒に」

「このまえもそういっておかあさんこなかった」



ぷっくり、ほっぺをふくらませると、おとうさんはこめかみをおさえた。



「あー、あの日だったか。今度は本当だ、弥生と3人で遊園地行こう」



ふんわりとわらうおとうさんのくろいかみのけをにぎる。

むかしは、きいんろだったんだって。

しゃしんみせてもらったけど、ほんとうにきんいろだった。



おれはうつむいて、うなずいた。



「やくそく、してよ」

「おう、約束する」



おとうさんがわらうから、おれもつられてわらった。





* * * * * * * * * * * 



もう5さいになるんだし、おとこだからなくのはいやだった。

でも、おれはいま、なきそうになっていた。



「そうか、分かった。ん、仕方ねえよ。……ああ、もって昼過ぎって所だな。……頼むぞ」



でんわしているおとうさんのせなかがぼやける。

……おかあさんはけっきょくこない。

おとうさんのはなしでは、おかあさんのおじいちゃんのおうちにいっていて、おくれてくるんだって。

でも、でも。

おれ、きょう、すっごくたのしみにしてたのに。



< 296 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop