散らないサクラ


「は、はぁ、はぁ……! てめ、おま、んで勝手にどっか行ってんだ! 離れるなっつたろうが!」

「っ! ……う、ごめ、ごめなさっ」

「秋、退いて」



おとうさんのうしろからこえがしたとおもったら、おかあさんがいた。

あついはずなのに、ひんやりとしたかぜがふく。



「お、おれ、わ、わるくないよ! おかあさんがやくそくやぶったんだ! うそつき!」



おとうさんにあやまるのはわかるけど、おかあさんにあやまるのはちがうとおもった。

だからつい、こんなこといっちゃって。

くちにだしたら、どんどん、いっぱいでてきちゃって。



「おかあさんなんてぼくがきらいなんでしょ、ほんとうのおかあさんじゃないんでしょ! だからさいきんは、おれとあそんでくれないんだ」

「泰雅!」



おとうさんがおこったこえをあげた。

そのあとすぐ、



――――ぱしんっ!



ほっぺにおかあさんのてがあたった。

あたったというよりも……、たたかれた。

いたい。

……いたい、いたいよ、なんで、いたい。



「う、うえっ」

「ごめん!」



こえをあげてなきそうになったとき、おかあさんがおれをだきしめて、あやまった。




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