散らないサクラ
佐倉は驚いた様子もなく、顔に回していた腕を俺の背中へと移動させた。
人の体温はここまで心地よいものだっただろうか。
いや、俺が感じてきた体温の中で熱くもなく冷たくもなく、なんとも生ぬるく、不思議で心地いい体温。
赤が……、引いていく。
あの人の呼ぶ声が、薄れていく。
「秋羽、あたしはアンタに学校に来て欲しいわけじゃない」
「…………」
耳元でする声色は優しいのに真剣で、俺は息をひそめていた。
「アンタにとって、この廃墟が世界なのかもしれない。でも、それよりもっと広い世界を、あたしは秋羽に見せてやりたい」
「いらねえよ、そんなの」
佐倉に不思議な感情を抱いているのは確かだった。
だけど、心の底から人を信じるなんて、そんな吐き気がすることできるはずがねえ。