散らないサクラ
……あの人の呪縛が、少しずつ薄れていっているのは確かだった。
でも、まだ本当にあの人が許してくれてない気がして、俺はこの薬に頼るのだ(そうじゃないと赤色の世界が追ってくる)。
――――ッガ……、ン……ッリ、ン。
耳の奥が遠くで何か割れる音がしたのを確認したが、脳内はそれを無いものと処理をした。
早く、はやく、ハヤク。
薬を3粒掌に乗せ、口に放り投げようとした、その瞬間――――、
「秋羽っ!!」
佐倉の声と鉄パイプが目の前に飛んできた。
反射的にその鉄パイプを受けとめようと、体の体制を固め、物体を確認し、手を伸ばした。
掌に乗せていた薬は清潔感のない床に落ち、鉄パイプは俺の手に吸い込まれた。
だが、状況が把握できず、霧がかかってる状態の頭では上手く考えられない。
「秋羽!」
血相を抱えて近寄ってきた佐倉からほんのりと、甘い香りがした。
佐倉は地面に落ちた薬と、俺の瞳を交互に見つめると、ほっと胸を撫で下ろした。