散らないサクラ

わざと靴音を鳴らすように歩くと、その音に反応して輩の肩が震える。


……うぜぇ。


本当に命取られる覚悟のねえやつが、簡単に命取れとかぬかしがやって。

てめぇが守ろうとするやつはそこまでに値する人間なのか。

輩の前まで止まり、ワックスで固めた頭部の髪の毛を引っ張りあげる。


低い呻きと共に上がってきた顔は涙で濡れていた。



「……っ……、そ、ちょう」



うぜぇ、うぜぇ、うぜぇ。


拳を振り上げ涙で濡れたその頬を渾身の力を込めて殴り倒す。

派手な音を立てて輩が倒れ込む。



「足りねえか? ……誰が薬を麻薬と入れ替えったって? なぁ、誰だって聞いてんだよ」



床に転がった輩の腹を数回蹴りあげ、その度輩は苦しそうに呻く。

それでも吐かねえ。


……うぜぇ。


俺はもう一度、輩の髪の毛を引っ張り上げ、無理矢理に立たせる。



「誰だっつってんだよ」



恐怖で揺れる輩の顔に苛立ちは最高潮。


醜いその顔にもう一発喰らわそうと腕を振り上げたその時、ガタリ、と音がした。

反射的に振りあげた手が止まる。



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