散らないサクラ



「てめぇの病気が分かったことに関しては、あの女に感謝してるよ」



そうじゃなきゃ、こんな隙を見られなかったしな、と続ける。



「だが、あのアマ! この屑がびびって助けを求めにいったら即ここに突っ込んできて、真っ先に俺を殴り倒しやがってよッ! はっ、てめぇはあんなセンコーだがなんだか知らねえ汚い女に絆されちまって! 馬鹿じゃねぇの?」



見下すようにして、床に倒れ込む輩を見る歩に俺は心の奥底が煮えたぎるのを静かに感じた。

歩が輩を馬鹿にしたからじゃねえ、俺のことを蔑んだからじゃねえ。



てめえの口から佐倉を蔑む言葉が聞こえたからだ。



歩、てめえが何を抱えてるかなんて知らねえ。

だがな、お前があいつを語るんじゃねえよ。



体が冷めていくのに、脳は煮えくりかえるんじゃないかと思うくらい熱い。

心臓は確実に前進に脈を打ち、瞳は怒りを放出している歩を捉えて逃がさない。

脅威を孕んだ瞳に歩が一瞬怯む。

その瞬間をこの俺が見逃すわけがねえ。



―――ヒュ、ガッ!



風を切るような短い音と、歩の腹に入る拳。


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