散らないサクラ
左手は首元を締めたまま、右手だけ離す。
離した右手の行く先を歩の虚ろな目が追っていく。
される事なんて分かり切ってるはずなのに、そこにはどこか期待が入り混じっていた。
は、馬鹿じゃねえの。
てめえの期待は悪いが応えてやれそうにねえよ。
―――ッガ! ガツッ!
振りあげた右手は躊躇なく歩の右頬に入る。
首を絞められている所為で息を吸う事も出来ず、本当に生き地獄を味わってる歩の顔は死んでいた。
ここまでやるつもりなんてなかった。
本気の一歩手前で踏みとどまろうと決めていたのに、歩からあいつの名前と蔑む言葉が聞こえた瞬間。
俺の脳内はすべてをシャットアウトし、目の前の歩を敵としか認識しなくなった。
ここに来て、俺は認識する。
誰かの言葉で諭されるのなんて好きじゃねえし、誰かが“気づけ”と言わないと気づかないほど愚かな人間だとも思ってなかった。
だが、俺はどうしようもないほどに、あの女に関心があって。
たぶん、いや確実に。
俺はあいつ、佐倉に惚れているんだろう。
気高いほどに瞳の奥の揺らがない信念。
綺麗な瞳でまっすぐに俺をみる姿。
すべて眩しくて、愛しくて、手に入れて閉じ込めてしまいたいとせつに思う。
これを恋と呼ばずになんと言えばいい(自分で言って恥ずかしい)?