散らないサクラ
「そ、ちょ」
「興醒めだ。仲良くお仲間ごっこでもやってろや」
背を向け、休憩室を後にしようとすると輩の声が俺の背中を引きとめる。
「っそちょ! 副総長はっ、ホントは! げほ、ホントはっ!」
一生懸命に息を吸い込んで吐いて、落ち着かせようとする輩。
俺の熱を奪われた体は虚無を捉えきらず、少し揺れた。
何度か咽るのを終えた輩は一息ついて、震える声で切り出した。
それを俺は背を向けたまま無言で受け取る。
北町のトップ“ケルベロス”。
俺たち“コスモス”と幾度となく喧嘩をし、殴り、殴られ、どっちがどっちの町を潰すか、それだけを考えてぶつかってきた相手チーム。
そのケルベロスの幹部の女に(幹部の女だと知らなかったのだろうが)うちの輩が手をだしたこと。
もちろん、ケルベロスの幹部はキレて輩を凹殴りにし、終いには“ハデス”の名前を出してきたこと。
“ハデス”、この世界に入れば名を知らないものはいない、と言うほどでかいチーム。
“ハデスに手を出したら殺される”、“触らぬ神にたたりなし”、“眠る番人”、異名はいくらでもある。
そしてその“ハデス”の直属の配下にあるのが“ケルベロス”。
ケルベロスはハデスの加護を受けてる。
だから震えあがった輩は歩に相談をし、歩がケルベロスの幹部に頭を下げにいったこと。
だがその謝罪も条件つきだった。
その条件が“コスモスの獅子を潰すこと”。