散らないサクラ


「歩さんは! ……っ、歩さんは! こんなことっ、望んでなんて……、なかったんっすよ」



泣き崩れるような音。

俺は振り返らなかった。



―――ああ、知ってる。



「……俺が知らねえとでも思ったか。餓鬼じゃあるまいし、いつか話すんだろうってガラにもなく待ってた俺が一番間抜けだったワケだ」



その俺の声に、歩の息の飲む声が聞こえ、それと同時に二つの嗚咽が聞こえた。



「……っあぎ、! 言え、ながっだ、っ」



歩の声が背中に刺さる。



「びょ、きっ、……、びょ、きあって、ぐるじん、でだ、のにっ! ……これいじょ、負担、かけさせ、らんね、……っ、あぎ……、ずまながっだ」



俺が知らないワケねえだろ、屑。


突きつけられた条件の内容までは知らなかったが、てめえが俺の代わりに輩をまとめたり、屑たちの片づけをしてた事。

ケルベロスの件も、薄々気づいてたが、てめえがいつ言うのかって、待ってたんだよ。

てめえが辛い思いしてたの、俺が知らねえとでも、本気で思ってたのか。


仮にもコスモスのトップである、この俺が。


頭の中ですげえ想いが駆け巡って、それを口に出そうとしたがやめた。



先ほどと同じように後ろを振り向かないまま歩きだす。



「……あばら一本ヤった。病院いけや」



歩が俺のを名前を呼んだのを最後に、休憩室の扉を閉め部屋を後にした。





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