散らないサクラ
「……綺麗だな」
つい、心で思っていた事を口に出すと佐倉はふっと笑った。
「おや、珍しいね。あんたが口に出すなんて」
「っせ」
確かに刺青が綺麗だと思ったのもある。
だがそれ以前に、てめえの凛と張った背中にあるそれが、てめえ自身みたいだからだ。
そこに存在する事を示して、堂々と胸を張っているその刺青が、てめえみたいで綺麗だったからだ。
「触る?」
「あ?」
「アンタの腹の傷触らせてもらったからさ。減るもんじゃないし、どうぞ?」
熱心に見つめていたのを触りたいのかと勘違いされたのか。
俺はそこまで欲求不満でもねえし、つか、やっぱコイツは俺の理性を試そうとしてんのか。
だが、触ってもいいと言う許可に、俺の好奇心が疼き、舌打ちをしてソファを立った。
立ちあがり凛としている背中に近づく(裸だと思うとなんか微妙だが)。
前を隠す素振りも見せない佐倉に少々苛立ちを感じながら、ゆっくりとその背中に手を伸ばした。
湿った肌の感触と、墨をいれたザラっとした感触。
俺は桜の花びらをなぞり、それに戯れる竜に指を伸ばす。
そして最後に真ん中だけぽっかり空いた、佐倉自身の肌に触れた。