散らないサクラ
「……歩、今日お前のケツに乗せろ」
「あ? お前のバイクは?」
腕を掴んだ男、西条歩(さいじょうあゆむ)は、元々白い肌を月明かりに照らされてもっと白くさせた。
バイクの鍵をじゃらり、とポケットから取り出すと首をかしげる。
「乗って帰る気分じゃねえ」
ぶっきら棒に返すと、歩は呆れたように笑った。
血生臭い体。
全身に浴びた訳でもないのに、血の匂いが染み付いて離れない。
自分がしてきた行為を表しているようで、気持ち悪くてしょうがない。
バイクを握ることさえ気持ち悪い(バイクが穢れる気がする)。
確かにあと少しで息の根が止められるほどにする必要は、なかったのかもしれない。
止まらなかった、それが一番の理由。
歪む顔、逃げ惑う塊、全てにイラツキを感じ殺意を芽生えたのも確か。
頭の奥底が真っ黒に染め上げられて、理性をぶっ飛ばせる。
そうなれば俺自身が凶器。
体は言う事を利かない。
「片付けすんだら帰れ」
歩がバイクをふかし、後ろに乗れと指を差す。
それに跨りながら、横目に輩を見る。
塊を転がした手を止め、此方に向かって手を振る。
「総長、副長、お疲れした!」
笑ってんじゃねえ馬鹿、と小さく呟くとバイクが激しい音を立てて前進した。