散らないサクラ
佐倉の“相手にしない宣言”には多少堪えたが、確かに俺にはやらなきゃいけない事がある。
それに考えるだけ無駄って言うことも、分かってる(佐倉にもそう言われた)。
居心地のいいソファに身を預け、深呼吸。
―――『……っあぎ、! 言え、ながっだ、っ』
―――『びょ、きっ、……、びょ、きあって、ぐるじん、でだ、のにっ! ……これいじょ、負担、かけさせ、らんね、……っ、あぎ……、ずまながっだ』
歩の最後の声がチラつく。
あいつが理由なしに、俺に歯を向ける事なんてないって分かっていた。
ケルベロスに手こずってるのも分かってた。
……ケルベロス。
何度も相手にした総長の顔が脳裏に浮かんで歯を噛み締めた。
俺のする事はただ一つ。
それ以外にすることなんてない。
決まれば早い、俺はソファから腰を上げ、準備をしようと肩を回す。
と、その時、廊下に繋がる扉が開いた。
「お?」
俺と扉を開けた人の視線が絡まる。
乱れた髪の毛とワイシャツ、煙草を加え、片手には買い物をしたのかビニール袋が握られている。
どうやらルームシェアの人間は男だ。