散らないサクラ
男はビニール袋をキッチンに置くと、笑いかけながら俺を見る。
「弥生のお客さん?」
「……ああ」
威嚇気味にソイツを見ると、その視線に気づいたのか、男は苦笑いをした。
それからすぐ、佐倉が部屋から顔だけを出してその男に言う。
「おかえり、今日からコイツ此処に住むからさ! よろしく」
語尾に星がつきそうな勢いで捲し立てると、すぐに部屋の中へと入ってしまった。
あのアマ!
適当すぎる、とため息をつくと相手も同じようだ、眉を寄せて閉められたドアを見つめている。
「はぁ、自由奔放なのも大概にしろよな」
慣れているのか、男はそれだけで納得し、俺に向き直った。
「俺は弥生のダチで、リョウ。適当に使ってくれて構わねえから」
リョウと名乗ったやつ、遊び人っぽいがどうやら悪い人ではないようだ(人の事言えないが)。
警戒を解きながら名乗る。
「獅堂秋羽」
「秋羽ね。ん、よろしくな」
そう言うとビニールの中から食材を取り出して手際良く冷蔵庫に入れていく。