散らないサクラ
あの時、“体だけの関係ならいい”と真剣な眼差しで告げた佐倉の顔が浮かんで消えた。
……ああ、そう言うことか。
体なら与えられるけど、心までは与えられない。
与える相手はただ一人、死んじまった最愛の人。
オカシイを通り越して笑いすらも出てこねえ。
告げられた言葉で沈黙した俺をリョウは優しい色をした目で見た。
「諦めるか? さすがに死んだ人間相手じゃ、戦う気も失せるだろう?」
宥める言葉だったのだろうが、俺にはそれが挑戦とも挑発とも取れた。
“諦める”?
今までしたい事をした、気に入らない奴は容赦なく潰してきた、それでも満たされなかった心。
そう、初めて心の溝を埋めてくれた女がいて、挙句欲しいと思ったその女を諦める?
……はっ、冗談じゃねえ。
そんな情けねえ根性を悪いが俺は持ち合わせていない。
俺は自分自身とリョウの言葉をあざ笑うかのように鼻から息を吐いた。
「そんなの俺が“最愛の人”になればいいだけの話だ。……その男がどんな人間だったのかなんて知らねえ。でも、俺はそいつを超えてみせる」
佐倉の心を埋める存在になってみせる。