散らないサクラ
「理由が理由だっただけに、俺もあいつを無理に止めようとはしなかった」
「理由?」
俺が尋ねると同時に、佐倉の部屋のドアが開く。
部屋から着替えを終えた佐倉が出てくる。
本人の了解なしに過去を聞いていたせいか、心臓が一瞬浮く(情けねえ)。
佐倉は俺をみてリョウを見ると、困ったように眉を寄せて笑った。
「本人なしで過去をほじくり返さないでよ」
「減るもんじゃない、教えてやれよ」
リョウはまだ空けて無い缶チューハイを上げて笑ってみせた。
それに佐倉が“ビールがいい”と笑って返す。
俺は佐倉を穴が開く勢いでじっと見つめ、自分の心臓が静かに波打つのを感じていた。
佐倉はでかい冷蔵庫からビールの缶をを取り出すと、口をあける。
ぷしゅ、と炭酸の抜ける音がした。
「竜の話ししたの?」
少し柔らかく笑って、佐倉はビールを呷った。
「んや、これから。ああ、でも死んだことは伝えた」
異様な光景だ。
大切な人間の話をこうも簡単に“死んだ”と口にしてしまうのもどうかと思う。