散らないサクラ
まあ、俺自身も母親の事を佐倉に告げる時、そんなに深刻に言わなかったのだが。
だが状況が違うだけに眉を寄せてしまう。
「ふぅん。……秋羽も物好きだね。こんな話聞いて面白い?」
面白い、と正直には言えない。
面白いだけじゃねえ、これはこれから戦う相手に向ける俺の覚悟の証でもある。
佐倉が心の底から愛した人間を超えるため、俺はその人の話を聞いておきたい。
少しでもアンタの近くにいきたい、アンタの事を知りたい。
そう思う俺を、否定するのはやめてくれ。
俺は沈黙を守り、一度だけ頷いて見せた。
もちろん瞳は佐倉を捉えたまま。
「あっそ」
佐倉は興味無さそうに缶ビールを喉に流し込む。
「ま、いいよ。ほら、言ったでしょう? あたし、母親のこと大好きだったの。組の中じゃ“姐さん”。強くて、綺麗で、器用で、でも気さくで。あたしの憧れる、尊敬する女だった」
頭の中でその女を浮かべて、きっと佐倉のようだったんじゃねえのか、と思った。
だからアンタも今、そんなに凛と立っていられんじゃねえのか、と。