散らないサクラ
「父親に小さい頃から組を背負って立つ、組長として厳しく教育されてたあたしをいつも心配して。“嫌なら、継がなくたっていい。アンタはアンタの道をゆけばいい”って、あたしを愛してくれた最高の母親だった。でも、癌にかかって他界したの。最後まであたしの行く末を心配してね」
「それが確か中学3年の春、か」
リョウが懐かしむように呟くと、佐倉が頷く。
「そうそう。だからあたしは母さんに誓った。立派に組を引っ張る人間になります、って。その戒めに背中に桜を彫ったの」
年齢的には法に引っかかるんだけどな、と苦笑いで付けたしたリョウ(後で専属の彫師に秘密で掘ってもらったと聞いた)。
「そのすぐ夏、父親が再婚をしたんだけどさ。その再婚相手に、もう子供がいたんだよね。正真正銘父親の子供。……しかもね、男」
分かる? と言うように他人を卑下するような瞳を此方に向ける。
俺は同じように何も言わずただ佐倉を見つめ続ける。
「組を継ぐのは女より男。ま、当然っちゃあ当然だったのかもしれないけどね、でも許せなかったのは……、許せなかったのはね。母さんを裏切ってた事」
ぶわり、と場の雰囲気が固まる。
佐倉からでる殺気に部屋の温度が心なしか下がった気がした。