散らないサクラ



* * * *



廃棄されて煤だらけの古い修理工場の休憩所が、俺達の根城。

割れた窓ガラスにはガムテープを、壊れた扉には木材を貼り付けてある。

見栄えは悪くとも、寒さや暑さをしのげるならそれでいい。

そこまで綺麗な場所なんて望んでいない。

それにここはなんでもある、有難いことに電気やガスが使えるし、更には風呂までついてる(もともと誰かが住んでいたんだろうが)。

俺にとってまさに城。



「秋、今日からガッコ始まったんじゃん?」



昨日の塊の赤色が消えない。

俺は洗面台にへばりついて荒く拳を擦っていた。



「あーき! 聞いてんの?」

「うるせえ、忙しいんだよ。見て分かんねえの?」



後ろでピーチク言ってる男を見ずにひたすら手を擦った。

分かっていた、この赤色が消えない理由なんて。

染み付いた色が消えないのなんて分かってた。

何度も、何度も繰り返しついた色だから。





< 7 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop