散らないサクラ


そんな俺とは逆に、佐倉の顔が一瞬にして緩む。

その顔に心臓がドキリと揺れた。



「家に帰らない事なんてしょっちゅう。……そのままずるずる年を取って、高校2年春。あたしらの学校に赴任してきた教師が凄い人だったんだよ。所謂現代の金八先生みたいな?」



ふわりと、今まで見せた事もない顔で笑う佐倉。



……“女の顔”だ、と気づくのに時間は掛からなかった。



コイツは今、最愛の人を思い出し、思い浮かべ、愛しく思っている。

俺は苦しくなった胸を抑えつける事が出来ず、握った拳に圧力をかけるしかなった。



「担任になってさっそく目を付けられて呼び出されて、なんか言われんだろうなって思ってたら“ちゃんと飯は食ってるのか”ってそれだけ。馬鹿にしてんのかって、椅子蹴って出てってやったわよ。それからずっと、嫌味なぐらい付きまとわれてさ」



棘のあるような言い方とは裏腹に、やはり佐倉の顔は優しくて。



「繁華街や陣地に来ては何度も乱闘に止めに入ったり、一緒になって殴られたり殴ったりしてたよな」



リョウの見せたガキみたいな表情とか。



「体力馬鹿だったからね。楽しんでたんじゃない? ……なんて言ったら“俺は真剣に止めに入ったんだって”って熱弁しそうだけどね」



この二人がどれだけのその人を慕っていたのか、体に伝わってくる。




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