散らないサクラ
ああ、うぜぇ。
苦しいと思ってる自分自身にも、目に見る事のできない相手にも。
俺はついに佐倉を目で追う事をやめてしまった。
情けないがこれ以上佐倉を見つめ続ければ、俺は目の前にある机を蹴り倒し、原型を留めなくしてしまいそうだ。
「榎本竜司(えのもとりゅうじ)、あたしの担任のセンコーであり、旦那」
笑顔の佐倉がカウンターテーブルに置いてある結婚式の写真を指で撫でた。
それはもう、愛しそうに。
「この人のお陰で、正面から親父とぶつかる事ができて、親父を理解することができた。更にはこうして教師と言う職に就く事ができた。……この人がいて、今のあたしがいるんだよ」
そして、アンタの唯一愛した人。
最愛の……、人。
佐倉の瞳が優しくて、俺には感じた事もないとても淡い色をしていて、死んでもなお根強く心に刻まれているのだと伝えている。
ああ、胸糞悪い。
佐倉の言葉から直接“愛している”、“最愛の人”だと言われなくて心底良かったと思う。
俺は床に視線を落したまま今まで以上に強く拳を握った。