散らないサクラ
「高校卒業してすぐ結婚して。あ、あたしこれでも結構有名な教育大学通ってたんだ」
「あれには俺も驚いた。“教職取るから”って突拍子もなく言われて、しかも“竜と結婚することにした”って言われた日にゃ、天と地がひっくり返ったかと」
「ぶぶっ、そん時のリョウのリアクションまだ覚えてるよ」
「……それは忘れろ」
ケラケラと笑い合う声、それを俺はどこか遠くたに感じていた。
高校卒業してからとか早すぎねえか、なんてぼんやりと考えながら。
「21の時、竜が倒れてさ、入院して、何事かって言ったらあいつケロッとした顔で“実は俺、原因不明の病気持ってるんだ”って言いやがったの。こっちは目が点。医者に聞けば“どんな薬を試しても効果はなし、ただ体の蝕む進行は以前よりも格段にスピードがあがっている”ってね。……馬鹿でしょう? んで、22になった頃、竜はあたしが教職を取る前にぽっくりお迎えがきちゃって、さよなら、って感じ」
ホント、馬鹿だよ、と呟いた声に悲しみの色が見えた。
それからそんな自分を吹っ切るように大声で笑うと、ビールを呷り、口を拭う。
「なーんでセックスする時、いちいちゴム付けンのかな? って思ってたんだけどさ、そう言う事かってね。22のあたしに子供なんて養えないし、父親がいないとなれば、ね。それにきっと……」
そう言って佐倉は言葉を切り、またビールを呷る。