散らないサクラ
だが、番犬はそれを回避する術を知っている。
屈むようにして腰を落とすと、そのまま俺のひざ裏目掛けて足が飛んでくる。
それを回避するため、俺は捻った拳を離す。
「平行線張る気? 仕掛けて来いよォ、獅子ィ!!」
「ぬかせボケェ!!」
工場内に響く叫び声。
隙あらば喉笛に噛みついて息の根を止めようとするかのように、俺たちの殺気はここを凍りつかせる。
互いに一歩も引かず、仕掛けては回避し、仕掛けては仕掛け返しの繰り返し。
まるでイタチごっこのそれに、互いに苛立ちが募る。
「……はっ、あは、獅子ィ……、俺を殴る前からその拳、赤いよね? 誰やったの?」
ニタリ、と厭らしい笑みを浮かべ隙を窺う番犬の瞳を逸らさず見る。
「誰だろうと、テメェには関係ねえ」
「まさか腹心だったり?」
ニタリニタリ、確信をついて笑うその顔は全てを悟っているように思えた。
俺の拳はこいつを殴る前から真っ赤に染まっている。
それは番犬が言った通り、腹心である歩を殴りまくったから。