散らないサクラ
その事実に俺の心が一瞬反応し、視線が揺れる。
番犬の口元がゆっくりと下がり、その一瞬を見逃さず俺の右頬へ拳を飛ばす。
避けきれねぇ、本能が悟り、俺は瞬時に奥歯を噛み締め首から上にかけて力を込める。
―――ガッ!!
思った通り、奴の左拳が俺の右頬にヒットする。
噛み締めた歯がギシリと、奇妙な音を立てた。
だが対応していただけあり、俺は数歩後ろによたるだけで済んだ。
「ビンゴ! だよね、獅子ィ?」
「…………はっ」
俺は口の中で滲んだ血を番犬の足元目掛けて吐きだす。
「タコ殴りしたんだね。ああ、可哀想に。哀れな猫ちゃんに同情しちゃうよ」
体の真ん中にある臓器からドクリ、ドクリ、と真っ黒い血液でもなんでもないものが流れ出す。
ドロリ、ドロリ、と真っ黒いそれは憎しみなんて可愛い言葉で片付けられるものでもなく、怒りなんてもので片付けられるものでもない。
番犬が言った言葉を一言一句間違えずに頭の中で何度かリピートされると、俺は体が急速に冷めていくのを感じた。