散らないサクラ
俺は震える右手を出来るだけ力を入れて握ってみる。
激痛が走り、握る前にダラリと力を無くす。
「……ちっ、使えねぇ」
ぼそり、と呟いてから顔をあげると、番犬も同じように顔をあげ俺と対面する。
そして不敵に笑みを浮かべてみせた。
「じゃあ、またいつかね、獅子」
背を向けてヒラリと手を振り、“ばいばーい”と抑揚をつけて去っていく。
“いつか”その時はてめぇを潰してやるよ、なんてほざける気力もねえ。
去っていく背中を眺め、そして昇り始めた太陽に目を細める。
……体が重い。
それでも動き出そうと寄りかかった壁から背中を離すと、案外ちゃんとした足取りで歩き始めた。
ちっ、もう一発行っとけばよかったな。
心で悪態をついて番犬が去って行った方向とは逆に歩き出す。
朝日が目に染みて、細めた目で前を見据える。
そんな目に映ったのは真っ赤なバイクとそれに寄りかかる一人の女だった。
「……よっ、秋羽」
「佐倉」
片手をあげて微笑むあいつがそこにいた。
俺は驚くでもなく、佐倉の顔を見つめそして息を吐く。
「ストーカーか、てめぇは」
その言葉に今度は餓鬼みたいに笑う。