散らないサクラ
「えらい男前になったねぇ」
「……っせ」
バイクに寄りかかるのを止め、腰をあげた佐倉は俺にゆっくりと近づく。
そして前髪に手を伸ばすとそれを持ち上げて額を露わにさせた。
俺は抵抗することなく、近くにある佐倉の温度を感じた。
……俺が唯一求めている温度が、すぐ近くにあった。
「あちゃ、このデコは一番酷いね。家返ってすぐ消毒だなぁ」
傷の周りを細く白い指がなぞる。
冷たい指が、ここで俺をどれくらい待ったのかを伝えてくれた。
指の温度とは逆に、心臓の芯はじゅっと熱くなる。
青痣や血でそこらじゅう赤くなった顔を、佐倉は愛しそうに優しく撫でる。
軽い刺激と優しい熱に、俺は身を任せ瞳を閉じる。
どうしてこんなにも愛しいのだろう、どうしてこいつが欲しいんだろう。
こいつを守れるにはどうしたらいいんだろう。
強くなりてえ、てめぇみたいに……、俺は強くなりてえ。
「……佐倉」
頬に移動した佐倉の手に自分の手を重ね、ゆっくりと瞳を開ける。
佐倉はいたって普通の顔をして此方を見た。
「ん?」
「アンタは桜みてぇだ」
「なに? 佐倉と桜で掛けてんの?」
このアマ(いつか必ず一発いれてやる)!