散らないサクラ
喧嘩で強いなんて、欲しかったわけじゃねえんだ。
そう、喧嘩でいくら憎い相手をなぎ倒し、絶命寸前に追いやったって、俺は満たされはしなかった。
俺が求めているものはそんなものじゃなかった。
求めているものがなんなのか、それさえ分からずに日々は過ぎ、結局何を求めているのか分からなかった。
でも、分かったんだ。
俺が求めていたもの、欲しかったもの。
それは誰かを守るための強さと、暖かいぬくもり。
教えてくれたのは、なあ、アンタなんだよ。
脈を打つ佐倉の手は段々と熱を取り戻し、暖かくなっていく。
逸らす事のない瞳は優しい色をしていて、俺はそれさえも安堵して体の力を抜いた。
すると口端から流れた血を佐倉のもう片方の手が躊躇なく拭い、そのまま俺の左頬に添えられた。
「秋羽、アンタはもう桜を持ってるじゃない」
優しく、だが悪戯な笑みが此方を見る。
「俺の桜?」
「そう、アンタの桜」
この女はまた訳の分からない事を言う。