散らないサクラ
次第に近づいてきた歩に佐倉が適当な挨拶を交わし、それに対応する歩をじっと見る。
その目に気づき、歩が遠慮がちな瞳で此方を見る。
「……秋」
「てめぇ、なんで此処にい」
「あたしが教えたの」
最後まで言い終わる前に佐倉の声で遮られる。
満足そうに笑う佐倉と対照的に俺は不機嫌丸出しで二人を睨む。
「佐倉さんに聞いた。誰かに会うために此処にくるって」
居場所も目的も、佐倉にもリョウにも話してもないのに、と思いつつ、何故か佐倉には知られている気がしていた。
歩は松葉づえを持ち直し、痛みに顔をしかめると俺をしっかり見据えた。
「会うならぜってぇ番犬だって思った。だから、下の奴らのケツに乗せてもらって此処まできた。案の定、番犬とタイマンしてる秋を見た」
いつからいた、なんて野暮な事は腹に飲み込んだ。
こいつはその場面を見て、手を出さずに見守っていた。
苦しい思いをさせられた奴らのトップを相手に、手を出さず、堪えていた。
……耐え抜いたこいつの誇りを汚したくはない。