散らないサクラ
それが怖いんだろう。
だが、悪いな、俺の意志は変わらねえ。
決定打を打とうと口を開くと、歩の目が此方を見た。
「……俺が……、ケルベロスに屈したからじゃねえのか?」
「あ?」
か細く広がった声に眉を寄せる。
「俺が! てめえの了解なしにケルベロスに屈したからじゃねえのか!?」
「ちげえよ」
「俺がてめえを消しかけたから、だから、秋、お前は……っ!」
しがみ付くように項垂れるように歩はその場に膝をついた。
情けねえな、コスモスの副総長が聞いて呆れる。
俺は鼻から息を吐いて歩と同じ目線の高さまでしゃがんだ。
「歩、俺の意志だ。初めて、俺は俺の意志で動いてる。……てめえがくれた拳は俺を動かすことすら出来なかったんだよ、ボケ」
項垂れてる頭をガシガシとかき混ぜると、歩はゆっくりと顔をあげた。
今にも泣き出しそうな揺れる瞳が俺の顔を捉えた。
ああ、そう言えばコイツと初めてあった時こんな情けねえ顔で、歩は俺を見てた。
繁華街の細い路地裏。
明るい表の町とは真逆の冷えた真っ黒い闇ばっかの場所。
そこに、壁を背にして寄りかかっていた男。
顔には痣、血、切り傷、すり傷。
よくみりゃ、服にはどす黒く汚れた血がついてた。
それが歩だった。