散らないサクラ
俺はその時の事を思い出し、クッ、と喉元で笑う。
「覚えてるか? てめえは路地裏で溝鼠みたいだった」
歩は一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに俺が何の事を言っているか分かったのだろう。
表情を和らげ少し笑みを零した。
「ああ。てっきり追手かと思って噛みついたっけな」
「ああ」
男、歩は俺を見ると光らせた眼球を此方に向け、その汚ねえ体で、力なんて微塵も入らねえ体で、俺に向かってきた。
「コスモスの前に入ってたチームに嫌気がさして、抜けるって言ったらあのザマ。俺にとっちゃあ目に映るもの全部敵に見えてた」
そんな眼をしていたと、今でも覚えてる。
全てを否定しきって、皆敵なんだと虚勢を張って、でもそれを貫き通そうとする強さがねえ、弱い奴だと。
俺は思った。