散らないサクラ


俺はその時の事を思い出し、クッ、と喉元で笑う。



「覚えてるか? てめえは路地裏で溝鼠みたいだった」



歩は一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに俺が何の事を言っているか分かったのだろう。

表情を和らげ少し笑みを零した。



「ああ。てっきり追手かと思って噛みついたっけな」

「ああ」



男、歩は俺を見ると光らせた眼球を此方に向け、その汚ねえ体で、力なんて微塵も入らねえ体で、俺に向かってきた。



「コスモスの前に入ってたチームに嫌気がさして、抜けるって言ったらあのザマ。俺にとっちゃあ目に映るもの全部敵に見えてた」



そんな眼をしていたと、今でも覚えてる。

全てを否定しきって、皆敵なんだと虚勢を張って、でもそれを貫き通そうとする強さがねえ、弱い奴だと。


俺は思った。



< 98 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop