向こう岸のきみ【掌編】
思わず見とれてしまってから…彼は首をひねった。
――長いことこの河原で生きてきたが、ゴミばかり流れ着くこの殺風景な川に、あんな娘がなぜ?
彼は向こう岸へ問いかけた。
「おぉい。あんた、どこから来たんだい?
ひょっとして迷子になったお姫様かなにかかい?」
娘が、白い面をこちらに向けた。
彼の姿をとらえてふわりと微笑む――見る者に思わず息をのませるような、清らかな美しい笑みだった。
そして、彼女は驚くべき答えを返した。
「お姫様なんかじゃありません。それに迷子でもないですよ。
私、今日からここで暮らすんです。」