向こう岸のきみ【掌編】
彼は彼女の薄紅を、美しいと思った。
が、陽が昇り暑くなると娘はいつの間にか緑の涼しげな衣に着替えてしまっていた。
少し涼しくなる時間には、しっとりした紅と金色の羽織りに。
「あんた衣装持ちだねぇ」
くるくる変わる服を呆れて眺める彼に、彼女はまた楽しげに笑うのだった。
「あなたは着替えたりしないの?」
「…オレは神さんからもらったこの一枚着だけさね。」
彼は、だらりと長いくすんだ緑の衣を揺らした。――彼が長い間、不気味がられてきた元凶の、大嫌いな衣を。
「…こんなもんをくれと頼んだわけじゃないがね。」
「あら、素敵ですよ?私、いつまでも変わらないモノ、憧れます。」
娘の言葉に、彼はのっそりと笑った。
「お世辞はいらねえよ」
「お世辞なんか言いません。」
そう言ってまた、娘は笑った。
この上なく楽しそうに。