HEART

…夢を、見てた。長い長い暗闇を進んでゆく夢。そこに居たのはお父さんとお母さん。

『置いてかないで―…』

必死に泣きながらあたしは両親にすがりつく。そして、冷たい目でそれを振り払われこう両親は言った。

『あんた何て、要らなかったのに』

本気で。あたしを憎んでいる目だった。

あたしのせいでお母さんも、お父さんも死んでしまった。

『なら、あたし消えるから…お願い。一度だけでもあたしを見て…』

あたしが消えれば。あたしが消えることで2人が戻って来るのなら、と思った。

カッターを自分の手首に当てる。

『…バイバイ』

薄れてゆくあたしの意識の中でニッコリと2人は微笑んでいた。最後まで、両親はあたしを見なかった。

それは今はもう、消えてしまった傷。

あたしがあたしとして生きた最後の記憶。その夢は不思議と両親を失った時のあたしと瓜二つだった。

当時小2だったあたしにはそれがどういうものだったのかは知らない。

< 29 / 41 >

この作品をシェア

pagetop