HEART

生まれた時から喜怒哀楽という感情か無く、言葉の意味も知らなかった。何故そこだけ欠けてるのかはわからない。

でも当然喜びの意味も知らないなら笑えるはずも無く、そのせいでたくさん傷つけられてきた。

…大切な友にすらも何度も裏切られた。

今までは何も思わなかったのに今回だけは違ってた。あたしがきっと心をその友達に許してたからだろうか。

「知ってるよ」

ポツンと寂しそうに呟く友達を見て、ようやく我に帰った。目の前に居る友達は誰か違う人みたいな感覚がする。

「涙がずっとそのせいでたくさん心に傷を抱えてた事も、誰も信じなくなったのも…愛さなかったのも全部」

一つ一つ言葉を探す様に、その声は心に優しく、儚く響き続けていた。

「あ…たし」

夢があったの。何時かあたしのせいでたくさん悲しませた人達を、あたしの歌で癒やしたかった。

でも笑わないあたしには決して叶うことの出来ない儚すぎる夢だった。自分が笑顔を知らないのに人を笑顔にするのはきっともっと難しい事。

「ごめん。辛いのわかってるのに、こんな事言って。でもあたしは聖斗君がどうして涙を選んだのか知りたかった」

言わないで。それ以上、あたしの心を壊さないでいてよ―…。お願い。あたしはもう誰も傷つけたくない。

「私は…聖斗君が好きだから」

綺麗にカフェのガラス貼りついた雪の結晶がキラキラ光っていた。

感情を好きで表に出さなかった訳じゃないのに。こんな風になってしまうのだろう、あたしは。

あたしが聖斗を"好き"と気付いていても友達にそれが伝わる訳が無かったのに…。

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