偽りの結婚
「どうか…しましたか?」
普段と違うラルフの様子に心配になり、訝しげに尋ねる。
「…っあぁ……君が笑うところを初めて見たから、少し驚いた」
やっと反応したラルフは慌てたように途中で止まった手を動かし、書類を手に取る。
誤魔化すようにそらした横顔は少し顔が赤かった。
そんなラルフには気付かずすでに意識は他へ行っていた。
そういえば、久しぶりに笑ったかもしれない…
以前もそんなに笑う方ではなかったが、心を許せるアリアやディランの前では珍しいものではなかった。
…ということは、私もラルフに心を許し始めているということ?
っ…気をつけなきゃ…
黙ってしまった私に今度はラルフが声をかける。
「明日は楽しむといい。もう、行っていいよ」
「えぇ…じゃぁ、また後で」
そう言うラルフにそそくさと書斎を後にした。
その日の夕食は―――――――
珍しくラルフも一緒にとり、夜も同じベッドに居たにもかかわらず、終始会話のないものだった。